中村一義│中村一義|ミュージックベース KIKA:GAKU

中村一義|ミュージックベース KIKA:GAKU

   

プロローグ

2021.06.12

昨春行われたスペシャルインタビューの完全版を掲載いたします。

中村一義はどんな想いでアルバム『十』を創り上げたのか?ぜひご覧ください。

※「“十” acoustic Live tour 2020」開催延期後、2020年3月



インタビュアー:渡辺大介


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-- 『十』という本当に素晴らしいアルバムを届けていただきありがとうございます。僕も完成前から…ホント出だしからいろんな話を聞かせてもらっているから…。思い入れもあって。


中村 制作中、いっぱい飲みに行ったもんね(笑)。アコギ1本のデモも聴いてるし、デタラメ英語で歌ってるのも聴いてもらってるもんね。


-- 飲みの席の話で印象に残っているのが、「次のアルバムはどんな作品なのですか?」って聞いたら「ブルース、…ロックンロールだよ。」って話されてて。で、なおかつポップであることの意味だとか大切さだとか、「ブルースをポップにする。」というお話も同時にされていたので、一体どういうものになるんだろう?って思ってて。僕は東洋館の試聴会で初めて聞いた時、“ブルースとポップ両方やってるよ。”ってとても感動したんです。やはりポップであるということは意識したんですか?


中村 まぁね。小さい頃は、ジュリー(沢田研二さん)になりたかったくらいだから、もともとポップ、そういう感性が染み付いてるんだよね。

でもアマチュアの時に、テクノから始めたからポップな方向は避けてたっていうか。なんだけど、みんなに自分の声や想いを聴いてもらうんだったら、やっぱりちゃんとメロディ書かなきゃいけないし、ちゃんと詞を書かなきゃいけないっていうのを肝に命じて…。

みんなに聴いてもらえるメロディってどういうものかっていうのを、現状にやられまくってた二十歳くらいのときに相当考えたから。




-- なるほど…。中村さんの、ポップかつメロディを大切にするというのは、想いを伝えたいってことなんですかね?


中村 そうそう。人に届けるっていうのは…、たとえどんなものを届けたとしても、全員が好きなものばかりにはならないし。それだと、なんか応えてるだけのAIのような作業になってきちゃう気がして。

想いというか…、人の熱が入るってことは、自分が知っている以外のものも入ってるってことだと思うんだよね。創っている本人の作業工程の中で、作品自体に自分でも意図してなかった手垢がついてたりとか…それも含めて自分だと思う。岡本太郎さんとかもそうだし。すごく人工的なものなんだけど、その人の熱がこもってるの。体温を感じる。

それを込めるにはちゃんとした分量で入れなきゃいけないのよ。人に応えるばっかりじゃなくてさ。


-- 分量っていうのは…?


中村 ”我が”の分量だよね。求められているものだけじゃない、理解されなくても差し出すもの。曲も詞も。デビュー当時は、それ以外のものをビートルズで埋めた感じかな。でも自分でやっているから、ビートルズと同じ楽器を使ってたとしても同じものには絶対にならない。自分になるの。


-- 中村さんも通ってきたテクノ…それこそ電気グルーヴやプライマル・スクリームとビートルズって、対極だと感じるんですけど、その両極が内包されているじゃないですか、中村さんの音楽って。『金字塔』のときには、あえてビートルズを最終的に選んだのですか?


中村 選んだというか、“決めた”の。詞がのって歌う以上、聴いてくれる誰かにアクセスするようにもってかなきゃいけない。そこで“ベストってなんだろう?”って考えた時に、その時はやっぱりルーツであるビートルズがベストだったと。


-- テクノってある種、無機質な感じをはらむというか。対してビートルズっていうのはバンドで、エモーショナルじゃないですか?


中村 テクノもエモーショナルなんだよね。手法が違うってことなんだよ、単純に。




-- 以前リリースされたシングル「運命/ウソを暴け!」という作品は、テクノからのアプローチと、ビートルズ的なものからのアプローチで、個人的にテクノとポップの両面性を見れる最強のシングルだと思っているんです。しかも両曲とも超名曲で。


中村 ありがとうございます〜(笑)。その両面性は僕の中で若い時からあるんだよね。


-- 中村一義の中にテクノの要素があるっていうのは意外だと思うリスナーは多かったと思うんですよね。その面白さというか…テクノで中村一義の独自性が出ているのかなって思っています。


中村 テクノって数の音楽で、それがエモーショナルになっているもので。「ビートでいえば16、ここで32になって…」っていう世界だから。基本は打ち込んでいるものだから、トラックがものすごく重要で。

対して、バンドは演奏するからね。ためたり、はしったり。熱量の表現としては全く別物だけど、音楽が好きだから両方好き。そういう意味ではずるいのかも(笑)。どれも好き、っていうのは。


-- すみません、正直、僕、ずっとロック一筋で、テクノはそんなに通ってこなかったんです。

そんな自分に強烈な印象を与えたのが、1998年にドイツのラブパレードへ出演した石野卓球さんのDJで。本当に圧巻でした。とんでもない数の人を踊らせてましたよね。あの映像を見た時に、石野さんが涙ぐんでるようにも見えて。“バンド大好き、リズムの揺れ大好き”な自分が、その映像を見て自分の中にあるテクノの認識を改めました。


中村 卓球さんはものすごいじゃん、テクノでも揺らすじゃん。単純に四つ打ちっていったって一拍ずつドンドンってやれば四つ打ちってわけじゃないから。キックの長さだったりとか、アタックだったりとか、ちょっと何かをずらすとか、そういうのでガラッと変わるの。でも、戻って来ればいいんだよっていう考え方(笑)。そこらへんが…「そういうことだよな!」って思うよね。

それはバンドも一緒で。だから、手法だけが違うってことなんだよね。

いやぁ〜、卓球さんによる「運命」のリミックスはウチの家宝です!


-- さて、ここから最新アルバム『十』についてお伺いしていきます。



次回に続きます。

『十』スペシャルインタビュー 完全版一覧